投資先企業紹介

株式会社 ユニオンファーム【事例紹介】

多様性を味方に、 先読みできない時代に 100 年企業を目指す

 

<出資先の概要(2020/9 時点)>
会 社 名株式会社ユニオンファーム
代 表 者代表取締役社長 玉造 洋祐
所 在 地茨城県小美玉市
事業内容施設園芸(有機野菜)
出資年月2017/8
出資金額10,000 千円

 

(株)ユニオンファームは、茨城県小美玉市にある有機野菜を中心とした施設栽培を行う農業法人で す。当社設立の背景には、玉造社長の父親が経営する新進株式会社の存在があります。新進(株) (現アイアグリ株式会社)は農業資材販売を主軸とした会社で、有機野菜の生産技術を顧客である生 産者に提供するための技術を研究する部署「農業技術チーム」を立ち上げました。農業技術チームはその 研究の範囲を栽培から農業経営に拡大すべく、2000(平成 12)年にスピンアウト。有限会社ユニオン ファームを設立し、有機野菜の生産を開始しました。会社設立時、アイアグリ(株)が 10%(当時)の 株式を保有し、アイアグリ(株)は当社の「農業資材の供給、栽培用施設の提供」を担っていました。 2001(平成 13)年に有機 JAS 認定取得、2006(平成 18)年に JGAP 認証取得し、その確かな 品質と安定した供給体制で大手スーパーマーケット 4 社の PB に採用されています。会社設立時アイアグ リ(株)に所属していた玉造社長は、2007 年 11 月にユニオンファームへ籍を移し、現職に就任されまし た。 今回は、農業資材会社を経て農業経営者の道を選択した玉造社長に、経営者として大切にしている 考えや、農業に対する思いをお尋ねしました。

 

1.父親が営む農業資材の小売業で顧客と向き合う中で見つけた、自分の進む道

― 玉造社長はもともと農業資材の会社に勤めていたとのことですが、経緯を教えてください。

「私は学生時代、本当にやりたいことがなくて、大学 4 年の 1 月になっても就職先は決まらないままでした。そんな 時、自分の父親から『うちの会社に入ってみたらどうだ、試験を受けてみたら』ということで、新進株式会社(現アイ アグリ株式会社)に入社しました。自ら進んでというより、手を差し伸べられたのがきっかけでしたが、実際に働き 始めると面白かったです。仕事をすることで初めて自分の生きている意味というか、社会に出て自分がやるべきこと はこういうことなんだと思うようになりました」

― 何か、『農業をしたい』と思うようになったきっかけがあったのでしょうか?

「父親の会社は農業資材の小売業で、私は営業を担当していました。農家の方々を訪問しながら小売業として 農業以外の業界の情報にも接する中で、日本ではほかの産業に比べて農業が発展して来ていないように感じて 『なぜだろう』と疑問を持つようになりました。『なぜ農家の後継者は農家をやりたがらないのか』『30 年前と同じも のを作っている。それは伝統的な側面があるかもしれないが、一方で、何でそれを進化させたり変えていかないんだ ろう』と純粋に疑問や業界の硬直感のようなものを感じるようになりました。 さらに、資材の提案をしていても、なかなか響かないし、農家の方が言っているリアル感も共感できなかった。資 材の紹介をしていて農家の方に言われました、『君はこの資材を使ったことがないだろう』と。当時自分は農業をし た経験もなければ、身近に農業する人もいない中で提案していたので、やったこともない見たこともないまま“農業 ってこうですよね”、“こういう風なことがいいですよ”と資材を売ることに、だんだん自分の中で戸惑いが出てきたんで す。癪だなと思いながらも、だったらちょっと(農業を)やってみようかと考え始めました。

 

 

他にも、大規模農家の人たちと接することがあって、彼らには農業の衰退しているマイナスムードはあまり無くて、 むしろエネルギッシュ。制度資金だとか L 資金ができたり、市場外流通が始まっ たり、契約取引を始めていたり、すごく活気がありました。一方で、成長し始め たばかりの業界で、労務管理など、制度の整備が追い付いていない部分を知 り、次のステップが必要になってきている時代かなと思い始めました。 当時、社長である父親が『農業に革命が必要だとか、変革の時期だから、 そういうのができる環境を整えなくてはいけない』と提唱するのに感化されてて。 もはや自分の意志ではなく、何とかしなくてはという勢いが刷り込まれていました。 そうしたことが重なって、小売業という(農業に対して)外部の立場でいるより も、結局農業を自分でやってみないと分からない、中に入らないと自分は何も できない、という考えに至りました」

 

2.サラリーマンから“農業経営者”への転身

― 経営者という立場で農業に飛び込まれた背景を教えてください。

「当時ここ(ユニオンファーム)はアイアグリの事業会社の一つで、当時売上が 8,000~9,000 万円でそこそこ の規模感でした。アイアグリのお店の売上が 3 億から 5 億円くらいだったので、アイアグリの店長と似たような仕事 かな、という感覚で農業経営者をやってみようと急に思い立ったんです」

― 玉造社長は当時 20 代で決断されたのですね。

「27、8 くらいでした。30 歳までに生涯かけて仕事としてやることを見つけようと思っていて、『農業をやりたい』という ことは明確になっていました。とはいえ、ゼロから始める勇気はなかったところ、関連会社というちょうどいいのがある と。最初はアイアグリを辞めるつもりはなくて、関連会社なので、出向できないかと考えていました。ところが資本割 合の関係で、アイアグリの社員のままでは社長として出向できないことがわかり、『農業経営者になるには、今の会 社を辞めるしかない』と、すぐにやめる決断をして 1 ヶ月ぐらいで辞めちゃったんです。 サラリーマンでいるか農家になるか。自分の中で農家になるのは決まっていたので、辞めるという選択肢しかな い。何の躊躇もなかったです」

―実際に農業経営者になられてみて、いかがでしたか?

「なった後に少し後悔しました。こんなに大変だとは思わなかった。やはりサラリーマンと経営者の違いもありますし、 小さい会社の経営者のやらなくてはいけないことの数の多さ。かなり準備不足のままで来てしまったと思いました。で も習うより慣れろで、実務を通しながらいろんな人に聞きながら自分で調べたり、月に 1 回 2 回ぐらいはいろんな 講習会とかセミナーに行って学び続けています」

 

3.長期借入以外での資金調達を模索、アグリシードファンドとの出会い

― アグリ社から出資を受けたきっかけを教えてください。

「直営農場の展開をしてきた茨城県小美玉市に続く、第 2 生産拠点を茨城県笠間市に開設する計画がありま した。当社にとっては大きな設備投資となり、それに伴う資金調達が必要な局面でした。それまで長期借入での 資金調達だけでしたが、負債がどんどん増えていくことはリスクでもあるので、これ以上借入金を増やしたくない、何 かないですかと相談する中で信連の担当の方から『アグリシードファンドがありますよ』と。 説明を聞いていく中で、我々の経営の自律性・自主性をかなり重んじてもらっている制度だとわかりました。 一般的な企業に対するファンドの仕組みや規模と比べても、アグリシードファンドは後ろから見守りますよ的な資金 提供で、非常に親切なファンドだなというイメージを持ちました。公庫さんや農中さんが持っている資金を、より農業 の発展のために使って頂こうという趣旨でこの制度を作られていることがよくわかりました」

― 出資を受けるに至った、一番の決め手は何だったのでしょうか?

「財務基盤は少し弱いですから、それも補いつつ、いろんな視点から当社を見て欲しかったというのがあります。やは り経営課題はたくさんあって、財務的な課題もあれば、現場のオペレーション上の課題もある。それらに対して、自 分の経営者としての見方だけではなく、株主として会社を見てくれる存在がいることは非常に心強いです。金融機 関は余計なことを言わないという気遣いもあるのかもしれませんが、本当はどんどん言って欲しいと思っていました。 また、私自身が人見知りなので、アグ リ社との接点が公庫さんや農中さんの大 きいネットワークにつながることはありがた いです。困りごとがあった時に何か策を見 つけてくれるのではないか、また他の同業 者を見ているのでトレンドをキャッチできる のでは、ということも期待の一つでした。 実際に生産管理については昨年日産 自動車さんのコンサルを紹介していただ き、非常に助かりました」

― アグリシードファンドやアグリ社が行う出資のこれからについて、思うことがあれば教えてください。

「そうですね。まず一番大事なのは資金調達の選択肢として認知してもらえるかどうか、だと思います。おそらく L 資 金知っている人と言うと多分手をあげる人は結構いますけれども、アグリシードファンドを知っている人と言うとそれの 何分の一だろうというところですよね。選択肢として選べていないのは、そういう環境でないということもあるかもしれ ませんが、そもそも、出資は金利のつかないお金、返さなくて済むお金が得られる、というものではありません。お金を貸してと言いに行くのと本質的に違うので、公庫さんや JA さんなど紹介なりアドバイスなり当然必要でしょう。出 資を受けるうえでは、いろんな知恵も必要です。配当だけではなく、議決権があるのかないのか。 『ファンド』というと、お化けが怖い感覚と一緒で、得体が知れないから考えもしないという可能性もあります。本 来そこは、『何それ、どういうこと』と関心を持って、知った上でジャッジするべきだと思います。もちろん、ファンドのこと を知ったとして、みんながみんな使わなくてはいけないわけでもないですよね。使う人もいれば、使わない人もいる。 農業は制度資金も充実していますが、資金調達の手段として選択肢をもっと増やすことで、多様性が生まれてく るのかと思います。 例えば我々は有機栽培をしていますが、慣行栽培があって有機栽培がある。ここに一つの多様化が生まれる。 また規模が大きい所もあれば小さい所もある、単品の生産もあれば多品目もある。そうしたそれぞれが自分たちに 合うものをどんどん取り入れていけば、強い農業経営というのはなるのかなという考えでやっています。 また、出資の活かし方もその人次第になるのかなと思います。例えば、これ現状維持のために使う方もいらっしゃ るでしょうし、もっとこれから右肩上がりを続けるためにやる人もいるでしょう。まだスタートアップだから使う人もいるで しょう。御社のサービスの内容としては、出資をするということで、それ以上でも以下でもないわけなので。あとは使う 側がどう活用するかだと思っています」

 

4.ユニオンファームが取り組む「新農創造」、そして持続可能な農業の実現化

― ユニオンファームが会社として大切にしていることを教えてください。

「我々のスローガンは新農創造であって、持続可能な農業のために何が必要なのかを模索していく役割を担って いると考えています。まずは、“新農創造”という、アイアグリのエッセンスが込められた農場なので、これは踏襲しよう という思いがあります。 それから、長く続いてきた企業を見れば見るほど、例えば、後継者がいるとか、事故を起こさないとかも含めて、 変化に順応して進化してきています。我々も規模の経済だとか利益率ということだけではなく、“持続可能な農業” って何なのかなと考え行動し続けています」

 

5.時代の先読みが難しい時代でも、「100 年企業を目指して成長を続けていく会社」をつくる

― 御社は「100 年企業を目指す」と HP にもありました。最後にユニオンファームとして、そして、玉造社長ご自 身の夢やこれから目指す姿などを教えてください。

「やはり 100 年続くってすごいことだと思うんです。誰でも出来るようなことを誰もができないぐらいまで続ける、という ことが自分に唯一できることかなというのがあるので。これからも、続けることにはこだわっていきたい。 そのなかで、0.1%かもしれない、5%かもしれない、10%かもしれないけれども成長を続けて行くんだ。それは今も 一緒だしこれからもずっとそれを続けて行く。そんな思いを込めて『100 年企業をめざす』というメッセージを社内にも 発信しています。 私は大きな野心があるわけでは ないですが、人生をかけて今やろう としていることを追求していく一本 道を進んでいると思っています。今 は時代の先読みが難しいですか ら、我々も先行して物事をやると いうのはできません。時代の変化 に合わせ、その時その時に必要だ ろうなと思うものを自分たちなりに 取り入れていくという判断をしてい くだけです。そうした先に、誰かが 100 年目を迎えて 100 周年記 念みたいなのがあったらいいなと思います。夢といえば夢なのかもしれないです。次の代に繋ぐまでは一生懸命やら ないとなと思います。 それから、税金も払い配当も出せるというのが株式会社の役割だというのは頭の中にあるので、配当を出せる一 人前の会社になりたいし、そうあり続けたいです。そうですね、自分が会長になるころには安定して配当を出せる会 社にしたいです。自分の老後の資金を確保するために配当を出せる会社を作る。引退後には配当を受ける、早期の引退ができるように経営力を高める、新しい夢ができました。そうなれる環境を作るのは自分ですから、これからも課題です」

 

 

インタビューを終えて

玉造社長のお話を聞いていて「変化できる種が生き残る」というフレーズが浮かびました。100 年企業にな る、という大きな目標を掲げながら、その過程ではしなやかに環境に応じて変化させつつ事業を継続・発展さ せていく姿が印象的です。また、玉造社長ご自身をしっかりと分析して理解を深めることで、経営者として物事 を進めるのに必要なピースをどうやって埋めるのか、外部の専門家の知恵やネットワークを味方にして対応され ている様子がよくわかりました。 有機野菜の栽培と生産へのこだわりは強く持ちながらも、経営判断については自分のやり方に固執しない 柔軟さが、ユニオンファームの強さにつながっているのだと思いました。玉造社長、ありがとうございました!