投資先企業紹介

株式会社 早和果樹園【事例紹介】

有田みかんで 6 次産業化をリード

【秋竹俊伸社長】

 

<出資先の概要(2018/11 時点)>
会 社 名株式会社早和果樹園
代 表 者代表取締役社長 秋竹俊伸
所 在 地和歌山県有田市
事業内容みかんの生産、加工、販売
出資年月2003/10(他 2 回)
出資金額43,950 千円(計 3 件)

 

日本有数のみかんの産地である和歌山県有田市で、「有田みかん」の生産から加工・販売まで一貫して手が ける早和果樹園。昭和 54 年に創業した 7 戸の農家からなる「早和共撰」を前身に、平成 12 年に有限会社 早和果樹園を設立した後、平成 17 年に株式会社化。もともとみかんの生産で独自の工夫を重ねてきた当社 は、加工品でもそのこだわりを発揮し、6次産業化を積極的に展開。みかん生産者だからこそ出来る高品質な商 品を続々と生み出している。一度、当社のみかんや加工品を食べると、リピーターとなるファンが多く、アジアや欧米 など海外にも販路を広げているほか、ネット販売も好調。昨年 10 月には直営 SHOP を併設した新社屋が完成。 雇用面でも、大学の新卒が殺到するなど、みかんの 6 次産業化を常にリードしている存在だ。

 

【2018 年 10 月に完成した早和果樹園本社】

1.二代目社長としての就任

早和果樹園では、創業者メンバーの子息である 4 名が後継者として入社し、その後全員一致で、平成 29 年 9 月に秋竹社長が二代目社長として就任した。

― 社長は跡を継ぐことをどのように考えていたのですか。

「まず、専務になる前に父親である現会長(当時社長)のヒアリングがあったのですが、それ以前に覚悟は決 めていました。創業メンバーの息子ら 4 人の中の誰かが社長になることは分かっていましたので、社長をやるための 勉強や準備を進めていました。ただし、ヒアリングの際は、『他の人が社長になりたいなら、受け入れる』とも言ってい ました」

― 社長に就任するまでは、総務を担当されていたのですね。

「僕は総務の仕事のように『扇のかなめ』でいることが好きな性格で、自分が出て行くより、後ろで全体が色々 見えているほうが好きなんです。親父が突っ走るのを見てきているから、自分は引いて見る、という感じです」

 

2.社内のコミュニケーション形成

企業の成長とともに、当社の従業員数は大きく増加(H30/6 末現在、約 70 名)。大学の新卒採用も増 加する中、コミュ二ケーション強化に向けて、社長がホスト役を務める「秋 BAR」という社内の飲み会も毎月開催 している。

― 秋竹社長からは社内の合意形成やコミュニケーションを大事にしているとの印象を受けましたが、これは以前 からの社風によるものなのでしょうか。 「会長の時代はトップの決定が全てでした。僕が社長になってから、一度全員を説得して大きな人事異動を行っ たことがあります。以前は会社全体で試飲販売の業務に対応していましたが、担当社員の高齢化と各部の業務 が忙しくなり、試飲販売が営業部に集中した結果、営業活動をする余力が残っていない状況になっていたのです。 そこで、生産部、製造部、総務部から 30 代社員を1人ずつ説得して営業部に入れ、同時に試飲販売を例年 の半分に減らしました。試飲販売による売上は下がったのですが、営業活動により販路拡大につながりました。そ の後は、社内のコミュニケーションを増やす目的から、『秋 BAR』という名前で、毎月社内の飲み会を始めました。 他の部署の話を聞いて、その部署に興味を持つ社員もいます。4 月に新卒の若い社員が入社してからは、さらに いい雰囲気に変わってきましたね」

 

3.新卒が殺到する採用活動

早和果樹園は、採用活動を積極化しており、最近は大学の新卒が殺到する農業法人としても注目されてい る。昨年は大手就職情報ウェブサイトで百数十のエントリーがあったという。

― 現在の採用活動について教えてください。 「新卒採用を始めたのは5年前ですが、当初は仕事内容について十分に理解を得られていないことがあったため、 今は会社見学会で現場を見てもらい、その後にエントリーシートを提出してもらっています。エントリーシートには、 志望動機ではなく、ホームページを見て気づいたことや新商品を考えて書いてください、としています。現場を見に 来るぐらいの思いを持っている学生に来てほしいという考えがあるほか、私たちも一度顔を見ることで、エントリーシ ートだけでは判断できない情報が得られます。会社説明会では、3 年目くらいの社員と交流する機会も作ってい ます。私が話すよりも、実際に一緒に働く人と接触する機会を作ってあげる方が安心材料にもなると考えています。 大学を卒業して地元の有田で働きたい学生が、『有田にもこういう会社があるんだ』って思ってくれるよう、新社屋 の内装も学生に響くものを意識しました」

― 御社のホームページの採用情報のページでは、部門ごとの仕事内容が分かりやすく書かれていて、働く姿がイ メージしやすい内容ですね。 「情報は全て開示し、その内容を見て OK な人を採用します。我々は農業法人ですが、新卒で入る社員は農業 の会社に行くというよりも、みかんをテーマにした企業に入るというイメージを持っているので、福利厚生についても他 の一般企業と同じ水準にしなければいけないと考えています」

 

 

4.全員出席の経営計画発表会

業務の拡大に伴い、社員の人材育成がますます重要となってきている。昨年は金融機関も呼び、社員が全員 出席する経営計画発表会を開催した。

― 経営計画発表会では、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。 「部門ごとに計画を立てるのは 29 年度からやっているのですが、30 年度は金融機関も呼んで、全員出席の経 営計画発表会としました。社員には原価を伝え、部署毎に全て粗利を計算して、各部署で利益を上げろという 風にやっています。会社のBS(貸借対照表)の課題は長期的な取組みであり、社長が考えるものであると考 えています。一方、PL(損益計算書)については、毎月役員や管理職を集めた経営会議の場で、あなたたち が作るのですよと伝えています。粗利で物事を考えるようになれば強いですね。しっかりとコミュニケーションをとったう えで、数字でものを語れるようになってほしいと考えています」

― 人材育成ではどのような点に留意されていますか。 「仕事の割り振りでは、全部丸投げするのではなく、仕事を切り分け、人の特性を見ながら進めていこうと意識して います。また、社員自身が何をしたいのか、何をすべきかを早く決めさせた方がよいと考えており、幹部を目指すの か、現場力を高めていくのか、入社 3 年目くらいに一度選択させることにしています。そのために、一人一人、私自身でヒアリングを行っています」

 

5.お客様向けイベント「アグリファンフェスタ」

早和果樹園では、16 年前より毎年みかんの収穫の時期に合わせて、「アグリファンフェスタ」というお客様向けの イベントを開催している。30 年度は 11 月 11 日に開催し、みかんの収穫体験やみかんを使った「糖度当てゲー ム」、「皮飛ばし大会」、地域の飲食店の出店、子ども向けブース出展など、大人も子供も楽しめる場とした結果、 来場者数は過去最高の約 950 名を記録した。

 

― アグリファンフェスタに参加させていただきましたが、お客様だけでなく、社員の方々が本当に楽しそうだったのが 印象的でした。このイベントはどのように企画・運営されているのですか。 「以前は私がほとんどを担っていましたが、最近はいくつかの委員会を作り、全てその委員会の中で決めるようにし ました。動き方は本人たちが全部分かっているので、みんなに決めさせるようにしたのです。特に今回は完全に社 員が作ったイベントです。それだけ任せられる人材も育ってきたと感じています。これまで長い間苦労してきましたが、 今回が一番成功したのではないでしょうか」

 

6.新商品の開発

6 次産業化で有名な早和果樹園は、平成 16 年に 100%みかんジュースの「味一しぼり」を発売して以降、 毎年のように「有田みかん」を使った新商品を開発している。現在の商品ラインナップは、「てまりみかん(シロップ 漬け)」、「味一ジュレ(ゼリー)」、「おふくろスムージー」、「みかポン(ポン酢)」、「黄金ジャム」、「みかん甘 酒」、「みかんの皮」などのほか、龍谷大学と共同開発した「うどん」、「化粧水」と非常に幅広い。

― 加工品に力を入れるのは、なぜでしょうか。 「みかんの販売は、ボトルネックの塊です。会社を伸ばしていくためには、生のみかんだけを販売するのではなく、 加工品を売っていかなければなりません。設備や人員の関係で搾汁できる量も限られていますので、商品ごとに 異なる果汁使用量を理解したうえで、果汁の使用量が少ない商品の売り上げを伸ばし、より利益を生み出せる 状態にしていきたいですね」

― 早和果樹園ではたくさんの商品を扱っていますが、最近だと龍谷大学と共同で化粧品などを開発されました ね。産学連携の経緯を教えてください。 「今回お世話になった藤岡先生との出会いは偶然でした。人づてに先生のゼミが柑橘類を探していることを聞き、 連絡をとってみると、会社のイベントにゼミの学生と一緒に手伝いに来てくれました。そこで「何か一緒に新しいこと をしましょう」と始まったのです。その際に、みかんの皮の残渣について相談したところ、ゼミの学生たちのプレゼンが 素晴らしく、彼らはうどんや基礎化粧品を実際に作ってくれる会社を見つけ、サンプルまで用意してくれました。おか げで、うどんは1か月後には商品化、基礎化粧品の方も学生らが主体となり容器の選定やパッケージデザインな ど一つ一つ決めていき、クラウドファンディングも利用したうえで、あっという間に商品発売に至りましたね」

 

 

7.今後の取組み

― 最後に今後の抱負を聞かせてください。

「会社は順調ですが、何があるかわからないという怖さを持って経営しています。うちは生産も製造も販売もやって いるので、経営課題がどこにあるかというのも刻一刻と変化します。もっとやりたいことをやる資金を生み出すために も、今後収益の柱を増やしていきたいと思います。」