投資先企業紹介

有限会社 るシオールファーム【事例紹介】

野菜の生産も、直売も、すべては米をお客様に直接届けるため

「米に軸足を置いた複合経営」

 

【レストランの建物は左側が直売所、右側がレストラン】

 

<出資先の概要(2019/10 時点)>
会 社 名有限会社るシオールファーム
代 表 者代表取締役 今井 敏
所 在 地滋賀県甲賀市
事業内容農産物生産(米、野菜、イチゴ、イチジク)、農産物の加工・販売、レストラン運営
出資年月2017/3、2018/4
出資金額19,950 千円(計 2 回)

 

(有)るシオールファームは、滋賀県甲賀市で水稲とキャベツをはじめ様々な野菜を栽培する農業法人で す。現社長の義父である徳地好雄さんが 1995 年に当社を設立。もともとは米の生産・出荷のみでしたが、 2009 年に直売所を開設し米の直売を始めました。直売をきっかけにお客様の声が届くようになり、米と一緒 に販売する季節の野菜の生産を開始、さらに玉ねぎドレッシングやおかきなど加工品の製造・販売も始めまし た。今井社長が農家として感じていた収穫する喜びは、直売の経験を通して「農業は作って終わりではない。 お客様に届けるまでが農家としての喜びだ」という考えに変わり、お客様に届ける道を模索する中で、2018 年 には念願の直売所併設型のレストランを開業。ますます多くのお客様とのつながりを広げています。

 

1.自動車整備士として農協勤務を経て、農家へ転身した今井社長

― 今井社長は農家のご出身ではないそうですが、どのような経緯で農業に就いたのでしょうか。

「妻の実家が専業農家だったので、結婚を機に農業をするようになりました。それまで地元の JA で自動車の整 備をする部署に勤めていました。当時はちょうどバイクブームで自分も二輪車が好きだったので、将来は独立してバ イク屋をやりたいなと考えていました。 農業への興味というより、車の整備の仕事をしたくて勤めていたのですが、農協なので収穫期にはカントリーエレ ベーターの手伝いもしていました。半袖で作業すると腕にモミ殻がまとわりついてかゆくなるので、実はこれが一番苦 手な仕事でした。」 ― 農業に就き始めた当初のことを教えてください。 「妻の実家は専業農家で、法人化していなかったものの、30 町歩程度ありました。私は当時 25 歳で何も知 らなかったので、妻の父親が徹底的に農業技術を身に付けさせようとしてくれました。今では感謝していますが、当 時は黙って言われたことをやるのは、理解もできずなかなかしんどかったです。 農業は工夫をいくらしても天候の影響があるので大変ですが、農家には収穫の楽しみが待っているから、春の 長時間のトラクター作業や 夏場の炎天下での仕事も できるのだと思います。 自動車整備士の先輩か らは、農業をやると言ったら 『資格も技術もあるのにもっ たいない』というリアクション で、それに反骨精神が刺激 されましたし、余計に簡単に は整備士の世界には戻れ ないなという気持ちになりま した」

 

 

2.若手農業者の仲間と小麦大豆主体の会社を設立、20 代で社長になり経営者として気づきの日々

― るシオールファームに勤める傍ら、共同ファームという会社を立ち上げ社長に就任されているそうですが、経緯を 教えてください。

「前職の車整備の世界では 30 歳代で一人前という世界でしたが、地元の農業後継者クラブに入ってみて、農 業では 40 代でも後継者世代だということに驚きました。この後継者クラブのメンバーはみな自由にできる範囲が少 【現役のトラクターも、農閑期は立派なディスプレイに】 なく悶々としていました。そこで、当時生産調整で、水田で小麦や大豆の転作を行っていたのに目を付けました。 転作部分については、当時は米以外を作っている限り補助金が出ていたので、作物の出来具合は利益に影響 せず経営の中でおまけのような扱いで、自分たちがやりたいことができると思ったのです。 そこで、後継者 12 名が集まり、共同ファームを立ち上げました。比較的大きな農家の後継者らにも声をかけ、 農作業の委託を積極的に受け、面積を増やしていきました」 ― 共同ファームでは社長としてどのようなことに取り組んだのでしょうか。 「小麦や大豆のほかに、キャベツを育て始めました。そしたら、初めてでもかなり大きいサイズのものができ、得意に なっていました。ところが、市場に持っていってみると『こんな大きなものは主婦が買わない』と言われてしまいました。 それまでは収穫こそが農家の喜びで、そのあとのことを考えたことはなかったのですが、この時『お客様のもとへ届ける まで』とお客様目線で生産を考えるようになりました。 また、当時は売れば売るほど赤字で、初年度の決算は赤字でした。当時は『農業以外のバイトで食いつなぐ か・・・』、ということも一瞬頭をよぎるほどストレスを感じました。経営者になって初めて、会社として利益を上げるこ との重要性を痛感しました」

 

3.るシオールファームの社長就任、直売への挑戦

― るシオールファームの社長になられた時のことをお聞かせください。

「私が就農した翌年に義父が法人化し、私は取締役に就任しましたが、経営の内容は稲作の単作で家族経 営の延長でした。先代の社長が高齢になったこともあり、徐々に仕事を任されるようになり、2008 年、私が 39 歳 の時に社長に就任しました。 社長になって真っ先に取り組んだのは、米を直売にすることです。初めて作った直売所はトラクター3 台分の車 庫を改造したもので、建設費用は 400 万円かかりました。当初は義父からも反対がありましたよ。初めての直売 の試みで、場所は倉庫の横でトラクターが横を通るような場所でしたから。 米を買うのは主婦の方が主なお客様ですので、様々な野菜の生産にも取り組み始めました。はじめは集客に 苦労しましたが、ある時、お米を買った人へ値段がつかない曲がったキュウリをおまけにすると大変喜ばれました。そ うした工夫が話題となり、お客様が増えていきました。 さらに、お客様の声をもとに、玉ねぎドレッシングをはじめとした自家野菜を使った加工品の製造・販売にも取り 組んできました」

― レストランを始めたきっかけは何ですか。

「2015 年くらいから 3 年連続で直売所の売り上げが頭打ちとなりました。小さい直売所だと売上に限界がある ことに気づき、さらに先を目指すために面積を広げようと考えるようになりました。また、いろんな野菜を作ってきまし たが、お客様と話すなかで、野菜の味や食べ方がわからなくて困っている方がいることに気づきました。自分たちが 作る野菜の魅力が十分に伝わっていなかったのです。家庭の食卓を担う主婦の方が、実際に食べて納得して買 えるように、レストランと直売所を併設することにしました。 レストランの事業については、畜産農家が焼き肉店をしているのを間近で見ていて、自分たち稲作農家にもで きるのではないかという思いを持っていました。さらに感覚だけではなく、実際にこの地域の外食にかける費用などデ ータを集めて分析して検討を進めていきました」

 

4.こだわりの詰まった、農家レストラン

― 農家レストランは昨年の夏にオープンしたということですが、今日も大変にぎわっていますね。ぜひ、こだわりを教 えてください。

「うちでは、シェフではなくあえて主婦の方に、メニュー開発から調理までお願いしています。農家レストランをすると 決めて相談していた時に、すでにレストランをされている方のところへ自分の妻を含め数名修行に行かせました。そ の時に、私はメニュー作りへの効果を期待していたのですが、その方に言われたのは『まずは衛生管理を徹底する こと』の重要性でした。どんなにおいしいものを提供していても、食の安全を守れないと、継続することができません から」

【るシオールファームのランチ】

野菜がたっぷりのランチメニュー。ピザは西日本初のパン用小麦「ミナミノカオリ」を使用。

 

― 直売所とレストランを併設していて、印象的なエピソードはありますか。

「『紅まくら』というラグビーボールのような形のスイカで、農家としては甘くてお勧めの品種があるのですが、直売所 で販売していて、あるお客様から『見た目が悪くて、お盆の進物にできないよ』と言われてしまいました。翌年、同じ お客様がランチのデザートで紅まくらを食べて、『進物もおいしいほうがいい』と紅まくらを選んで買っていかれました。 実は、その方のために丸いスイカも作っていたのですが…この時はレストランで提供する醍醐味を感じましたね」

【直売店内のマルシェブース】

写真左:主婦が楽しく買い物できる、工夫された店内。   写真右:旬のイチヂクは、早々に売り切れるほど人気!

 

5.今井社長が自分の代でやりたいこと

― 今井社長の今後の夢や目指すところを教えてください。

「うちの会社には、現在様々な特性を持つ人がいます。機械の操作が上手な人、根気強くて生産に欠かせない 人、レストランでの接客が上手な人、お客様への説明に優れている人など。その人たちが、それぞれの場のキーマン になれるような、場づくりを自分はしていきたいです。 また、長期的には、滋賀県以外での展開も考えています。生産面、販売面どちらの有利性をとるかによりますが、 いろいろアイディアを温めています」

 

インタビューを終えて

今井社長は社長就任後すぐに、野菜の生産や直売所に取り組むなど一見とても勢いがある方です。しか し、それらの取り組みの背景には、お客様の声やデータの十分な調査と、それらに基づく未来予測があります。 熱い思いで将来「こうありたい」という夢や理想を描きながら、自分が次世代に引き継いでいくまでの正味の持 ち時間を冷静に考えて、「いつ」「何を」するべきか、したいのか、を決める。この熱い思いと冷静なプランニングの 黄金比こそが、るシオールファームの、そして今井社長の強みだと感じました。今井社長、ありがとうございまし た。